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東京地方裁判所 平成11年(ワ)15200号 判決

原告 森海貿易有限公司

右代表者代表取締役 陳錫学

右訴訟代理人弁護士 川瀬庸爾

右同 小川恵司

右川瀬庸爾復代理人弁護士 山森克史

被告 国際汽船株式会社

右代表者代表取締役 岩野弘道

被告 服部克己

右被告ら訴訟代理人弁護士 松井真一

右同 西田章

被告 鈴木信彦

右被告鈴木訴訟代理人弁護士 阿部三夫

右同 左近輝明

右同 伊東孝之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対し、各自金二一七万米ドル及びこれに対する平成一一年七月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告国際汽船株式会社(以下「被告国際汽船」という。)を仲介人として、株式会社ブルーハイウェイライン(以下「ブルーハイウェイ」という。)から、船舶を購入する売買契約を締結したが、ブルーハイウェイが、被告国際汽船の仲介で、他の買主へ売却してしまったことから、ブルーハイウェイが船舶の二重売買をしたとして、被告国際汽船に対して債務不履行に基づく損害賠償請求を、被告国際汽船の取締役である被告服部克己及びブルーハイウェイの取締役である被告鈴木信彦に対して商法二六六条の三第一項に基づく損害賠償請求を求めているのに対し、被告らは、原告とブルーハイウェイとの間の売買契約は既に解除されていたので、二重売買にはあたらないとして争っている事案である。

二  前提事実(争いのない事実等)

以下の事実は、当事者間に争いがないか、認定事実末尾に掲記の各証拠によって認定できる(証拠を掲げていない事実は、当事者間に争いがない。)

1  当事者

原告は、貿易業、売買仲介業を目的とする、中華人民共和国香港の会社である。

株式会社ハヤシマリンカンパニー(以下「ハヤシマリン」という。)の代表取締役林永治(以下「林」という。)は、原告代表者と仕事上のパートナーシップがあり、後記の船舶売買に関して、原告を代理していた。

被告国際汽船は、船舶の売買及び仲介等を目的とする会社である。

被告服部克己(以下「被告服部」という。)は、被告国際汽船の取締役であり、同被告の営業第一部部長である。

被告鈴木信彦(以下「被告鈴木」という。)は、海運業等を目的とするブルーハイウェイの取締役である。

2  原告及び被告国際汽船間の船舶売買仲介契約

(一) 原告は、被告国際汽船に対し、平成九年一月ころ、ブルーハイウェイ所有の汽船サンフラワー・サッポロ(以下「本件船舶」という。)の買付けについての仲介を委託し、同被告はこれを受託した。

(二) 右仲介契約に基づき、被告国際汽船を介して、原告とブルーハイウェイとの間で商談が進められ、平成九年一月三一日、左記のとおりの本件船舶売買契約が成立した(甲第一号証)(以下「本件売買契約」という。)。

売主 ブルーハイウェイ

買主 原告

商品 本件船舶

代金額 金七四五万米ドル

引渡日 平成一〇年一月二五日から同年三月二五日の間で、ブルーハイウェイが指定した日

通知 ブルーハイウェイは、原告に対し、本件船舶の引渡しの日時及び場所について、一五日前、七日前、三日前の通知を行う。

預託金 原告は、売買代金の一〇パーセント相当額を、原告とブルーハイウェイの共同名義にて株式会社三井信託銀行に預託する。

代金支払 引渡日より、三銀行営業日前以内にブルーハイウェイの銀行口座へ送金する。

不履行 原告が本契約の履行を怠ったときは、ブルーハイウェイは本契約を解除する権利を取得し、預託金は売主に没収される。

(三) 原告は、右約定に従い、平成九年二月七日、金七四万五〇〇〇米ドルを、原告とブルーハイウェイの共同名義にて株式会社三井信託銀行に預託した。

3  ブルーハイウェイからの解除通知

(一) ブルーハイウェイは、被告国際汽船を介し、原告に対して、本件船舶の引渡日を平成一〇年二月二日と指定する旨の通知をした。

(二) 同年二月二〇日までに、原告から、ブルーハイウェイに対して、本件船舶の代金が支払われなかった。

(三) ブルーハイウェイは、被告国際汽船を介し、原告に対して、同日、本件船舶の売買契約につき解除の通知をした。

4  ブルーハイウェイによる本件船舶の売却

ブルーハイウェイは、ストリンジス・ラインズ・シッピング・エスエイ社(以下「ストリンジス」という。)に対し、同年三月三日、本件船舶を売却した(甲第六号証)。

第三争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、<1>ブルーハイウェイの解除が有効か否か、<2>ブルーハイウェイによるストリンジスへの売却が二重売買にあたるか、<3>原告の損害額がいくらかである。

一  ブルーハイウェイの解除が有効か否か

(原告の主張)

ブルーハイウェイは、平成一〇年二月二〇日付けで、原告との間の契約を解除する旨通知しているが、そもそもブルーハイウェイには、解除権が発生しておらず、仮に発生していたとしても、その行使は信義則に反して許されない。その理由は、以下のとおりである。

1 七日前通知がなされていないこと

売主たるブルーハイウェイは、本件船舶の引渡日について、一五日前、七日前及び三日前通知を行うことにより、指定しなければならず、右三通の通知を行って初めて引渡日が特定されるものである。しかし、ブルーハイウェイは、七日前通知を行っておらず、引渡日の指定がなされていない。したがって、いまだ引渡日が指定されておらず、約定では、原告の代金支払期日は引渡日の三銀行営業日前であると合意されているから、代金支払期日が特定されておらず、原告は履行遅滞に陥っていないため、ブルーハイウェイに解除権は発生していない。

2 引渡日が平成一〇年三月一〇日と合意されていること

被告国際汽船は、本件船舶売買取引についての、原告及びブルーハイウェイ双方のブローカーである。ブルーハイウェイは、原告との交渉一切につき、委託者としての指示の範囲内での交渉を受託者である被告国際汽船に一任していたものであって、原告との関係において、被告国際汽船は、ブルーハイウェイの代理人である。そして、原告は、ブルーハイウェイの代理人である被告国際汽船に対し、引渡日を同年三月二五日とすることを求め、これが受け入れられなかったため、同月二〇日、次いで同月一五日とすることを求めたところ、被告国際汽船の取締役である被告服部から、「三月一〇日ならOKです。」と告げられたのである。

加えて、原告は、本人であるブルーハイウェイから三月一〇日までの保管費用見積書の送信を受け、同見積書送信の意味について被告服部に問い合わせたところ、同被告から「三月一〇日で話はまとまったのでその日までの保管費用の通知が来たんですよ。」と説明されたのである。

したがって、引渡日を平成一〇年三月一〇日とする旨の合意が、原告と、ブルーハイウェイ代理人である被告国際汽船との間で成立したものであって、解除通知がなされた同年二月二日の時点において、原告に履行遅滞はない。よって、ブルーハイウェイの解除権は発生していない。

3 商慣習上、解除権は発生しない

引渡期間内の引渡日の指定権が売主にある契約においても、船舶売買、ことに大型客船の売買においては、引渡時期について買主が引渡期間内の期限猶予を求めた場合には、買主の要請を受け入れるのが商慣習である。

原告は、平成一〇年三月一〇日への引渡日延期要請を行ったのであるから、商慣習上、引渡日は同日まで延期されたのであり、原告に履行遅滞はないから、ブルーハイウェイの解除権は発生していない。

4 解除権行使が信義則上許されないこと

(一) 船舶売買が成立に至るまでには、売主と買主との間において、売買代金額及びその決済方法、船舶引渡方法等の主要取引条件のみならず、引渡対象となる装備、備品、書類等の特定、水面下検査等の船舶現況調査方法、修理すべき箇所の特定とその費用負担等、詳細多岐にわたる取引条件一切につき、取り決めなければならない。

そして、船舶は高額な商品であるため、取引条件の交渉はすべて書面で行われるのが実務である。

この書面の交換によりすべての取引条件の合意が得られたとき、全項目につき了解する旨の書面が交わされ、これを取引用語で「クローズ」という。

(二) ブルーハイウェイは、平成一〇年三月末までに本件船舶を売却しなければならない状況に置かれていたことは争いがない。

ブルーハイウェイにおいて、同日までに本件船舶を売却しなければならなかったとすると、ストリンジスとの交渉がまとまるまでは、原告との契約を解除しなかったはずである。

したがって、ブルーハイウェイは、ストリンジスとの間で、本件船舶のクローズをした後に、原告に対する解除の通知を行ったのである。

(三) 船舶売買においては、クローズの時点で契約が成立し、その内容を書面化して、後日契約書が作成される。

したがって、ブルーハイウェイとストリンジスとの間の契約は、ブルーハイウェイが解除通知を発送した平成一〇年二月二〇日より前、すなわち原告とブルーハイウェイとの間の契約の存続中に締結されたものである。

(四) また、ブルーハイウェイとストリンジスとの契約交渉開始時期は、同年一月三一日または二月一日ころである。

(五) 以上のとおり、ブルーハイウェイは自ら二重売買を実行していたのであるから、第一買主である原告を切り捨てるためになされる解除権の行使は、信義則上許されない。

(被告国際汽船及び同服部の主張)

1 七日前通知の欠如について

引渡期間内において任意に引渡日を決定する権利が売主に与えられていることは、本件売買契約の基本的条件の一部を構成するものであるが、原告が主張している七日前通知は、引渡日指定の通知に関する手続的規定に過ぎない。

一五日前、七日前、三日前に通知が行われる趣旨は、複数回の通知を行うことによって売主の指定した船舶の引渡日及び引渡場所を買主に対して事前に認識させることを確実にするためである。

したがって、買主が指定された引渡日時及び場所を認識している限り、売主による引渡日指定の効力に何らの影響を及ぼすものではない。

被告服部は、一五日前通知に先立ち、原告のパートナーであるハヤシマリンの林社長に対して、平成一〇年一月九日付け書面(乙第二号証)において、同年二月二日に指定される旨を通知し、原告は、一五日前通知を受領して、売主が引渡日を同年二月二日に指定したことを十分に認識していた。そして、原告は、同時期に、引渡日を同年二月二日に指定されたことを認識したうえ、ブルーハイウェイに指定引渡日の延期を要請していたのであるから、仮に七日前通知を受領していなかったとしても、同通知の欠如が、売主により指定された引渡日に対する原告の事前認識に何らの瑕疵をもたらすものではない。

2 引渡日の延期合意について

被告服部は、林社長から、ブルーハイウェイに対して三月一〇日を引渡日とするよう申し入れることを一方的に押し付けられただけであり、被告服部は、林社長に対してブルーハイウェイが三月一〇日への引渡日の延期に同意したと報告したことはない。

また、被告国際汽船は、仲介業者であったに過ぎず、一方当事者であるブルーハイウェイの代理人であったということはあり得ない。

3 商慣習の主張について

原告主張の商慣習は、買主に過度の保護を与えるものであり、契約法の常識に完全に違反するものであって、売主に著しい不公平をもたらすものであるから、そのような商慣習は一般に是認されていない。

4 信義則違反の主張

ブルーハイウェイがストリンジスとの売買契約を締結したのは、平成一〇年二月二〇日にブルーハイウェイが原告に対して本件売買の解除の通知をした後のことである。

また、ブルーハイウェイは、原告に対して、同月一二日に解除権を有する旨通知しているし(甲第三号証の一五)、被告服部は、林社長に対し、二月一三日付け書面(乙第三号証)、同月一八日付け書面(乙第四号証)によって、売買残代金が支払われない限り解除される可能性があると警告していた。

にもかかわらず、漫然と、原告が履行遅滞をしていたのであり、ブルーハイウェイによる解除権の行使が信義則によって制限されるとはおよそ考えられない。

(被告鈴木の主張)

1 七日前通知について

ブルーハイウェイは、一五日前通知、三日前通知及び引渡準備完了通知と同様に、七日前通知を被告国際汽船の被告服部に対して行っており(丁第二号証)、七日前通知も、原告に到達しているはずである。

仮にそうでないとしても、ハヤシマリンの林は、原告からの本件売買契約に関する件を一切委されており、しかも、被告国際汽船の被告服部は、林の代理人の立場にあったのであるから、七日前通知が被告服部に到達した以上、原告に到達したということができる。

いずれにせよ、一五日前通知、三日前通知及び引渡準備完了通知が原告に到達していることは争いがなく、七日前通知が到達しなかったとしても本件解除の効力が左右されるものではない。

2 本件船舶の引渡日について

売主であるブルーハイウェイは、平成一〇年二月二日と定めたのであり、本件船舶の引渡日が同年三月一〇日まで猶予されたとの原告の主張は、失当である。

3 原告主張の商慣習について

原告が主張するような商慣習は存せず、失当である。

4 信義則違反について

ブルーハイウェイがストリンジスとの売買契約の交渉に入ったのは、平成一〇年二月一二日に、原告に対して、権利留保通知をした後である。

そして、同月二三日に、売買代金五五〇万米ドルで一応の合意が成立し、正式な契約が成立したのは、同年三月三日である。

右の経過からすれば、原告主張の信義則違反は理由がない。

二  二重売買について

(原告の主張)

1 被告国際汽船及び被告服部の責任

(一) 被告国際汽船は、本件取引における原告及びブルーハイウェイのブローカーであり、被告服部が右業務を具体的に行った。

(二) ブローカーは、依頼者の意向を反映しつつ、取引を成功に導くよう、依頼された業務を誠実に処理し、努力すべき義務を負う。ブローカーの右義務は、仲介業務委託契約の債務の本旨であり、また善管注意義務の内容でもある。

しかるに、被告国際汽船及び被告服部は、自ら積極的に原告以外の買主であるストリンジスをブルーハイウェイに斡旋、仲介し、原告に秘匿し続けた。

右義務違反行為により、本件船舶の名義が平成一〇年三月一八日、ストリンジスに移転登録され、同月二〇日、ギリシャに向けて出航するに至り、原告は本件船舶の引渡し及び所有権移転登録を受けることができなくなった。

(三) ブルーハイウェイが解除権を有しないことは、争点一のとおりであるが、仮に解除が有効であったとしても、被告国際汽船とブルーハイウェイが責任を負うとの結論は変わらない。

ブルーハイウェイが解除通知を発信したからといって、原告と被告国際汽船との間の契約は直ちに終了するものではなく、デリバリーの可能性が残されている限り、その成功に向けて業務を行うべき義務を負っていたのである。

しかるに、被告国際汽船及び被告服部は、ブルーハイウェイとストリンジスとの間の取引を積極的に斡旋し、原告の本件船舶取得を不可能ならしめた。

(四) したがって、被告国際汽船は債務不履行に基づき、被告服部は商法二六六条の三第一項に基づき、損害賠償責任を負う。

2 被告鈴木の責任

ブルーハイウェイとストリンジスとの間の契約の成立(クローズ)は、解除通知に先行するのであるから、解除の有効無効を問わず、ブルーハイウェイは、本件船舶を二重売買したことになる。また、仮に、解除通知後にクローズしたものとしても、解除が無効である以上、二重売買となる。

被告鈴木は、ブルーハイウェイの直接の業務担当取締役だったのであるから、商法二六六条の三第一項に基づき損害賠償責任を負う。

(被告国際汽船及び被告服部の主張)

1 解除が無効な場合

(一) 被告国際汽船の仲介事務委託契約上の義務内容

仲介業者は、仲介事務を委託されているに過ぎないのであるから、売買の当事者が契約上の義務を履行しない場合に、仲介業者が売買を成功に導くことなどできるはずがなく、ましてや、仲介業者が委託者たる当事者にすら契約上認められていない行為を請け負うことはできない。

原告は売主に対して、引渡日の延期を要求する権利を有しなかったのであるから、仲介業者が買主から引渡日の変更を要請されてもそのような要求に応えられないのは当然である。

(二) 被告国際汽船による仲介事務委託契約の義務違反行為

ブルーハイウェイがストリンジスに対して本件船舶を売却したのは、原告との売買契約を解除した平成一〇年二月二〇日以後である。したがって、その時点において、ブルーハイウェイは他の業者との売買交渉権を有していたのであり、売主側の仲介業者でもある被告国際汽船が、売主のために他の業者への売却の仲介事務を行うことに何ら問題はない。

2 解除が有効な場合

売買契約の解除により、買主が売主に対する目的物の引渡しを請求する権利を失っているにもかかわらず、仲介業者が既に消滅した買主の目的物引渡請求権を実現することを請負うことは不可能であって、被告国際汽船及び被告服部に何ら責任はない。

(被告鈴木の主張)

ブルーハイウェイ、原告間の売買契約は有効に解除されているのであるから、ブルーハイウェイに二重売買はなく、被告鈴木に何ら責任はない。

三  原告の損害

(原告の主張)

1 原告が本件船舶をストリンジスを含めた他社に売却していれば、少なくとも、ブルーハイウェイがストリンジスに売却した際の価額である金八八七万五〇〇〇米ドルと取得価額である金七四五万米ドルの差額である金一四二万五〇〇〇米ドルの転売差益を取得することができた。

2 原告は、平成九年二月七日、株式会社三井信託銀行に金七四万五〇〇〇米ドルを預託している。右預託金は、ブルーハイウェイの同意がなければ返還を受けることができず、右預託金の返還も受けられなくなっている。

3 原告は、右合計金二一七万米ドルの損害を被った。

(被告らの主張)

否認ないし争う。

第四当裁判所の判断

一  前記認定のとおり、原告とブルーハイウェイ間には、平成九年一月三一日、本件売買契約が成立していたところ、同契約上の引渡日が属する翌平成一〇年において、次のような経緯があった。以下、項を改めて記述する。

二  事実経過

当事者間に争いのない事実、甲第一、二号証の各一、二、第三号証の一ないし一八の各一、二、第五号証、第六号証の一、二、第一〇号証、乙第一ないし四号証、丁第一ないし四号証、第一〇ないし一二号証、第一三号証の一、二、第一六号証、被告服部克己本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

1  ブルーハイウェイによる引渡日の指定及び本件売買契約の解除

(以下、平成一〇年については年を省略し月日のみを摘示する。)

(一) 被告服部は、一月九日、事前に、ブルーハイウェイから引渡日を二月二日にするとの連絡を受けていたので、林に対し、同日に引渡日が指定された旨ファックスで通知した(乙第二号証)。これを受けて、原告は、被告服部宛に、一月九日、右連絡を受けたが、アジア通貨危機により、引渡日を三月二五日にするよう依頼するファックスを送信した(甲第三号証の三の一、二)。

(二) ブルーハイウェイは、原告に対し、一月一六日付けで、正式に一五日前通知をなし、引渡日を二月二日と指定した(甲第三号証の四の一、二)。これを受けて、原告は、ブルーハイウェイに対して、一月二〇日付けで、一五日前通知は受け取ったことを確認した上で、アジア通貨危機により運航計画を変更せざるを得ないので、引渡期日を三月二五日に変更するよう依頼した(甲第三号証の五の一、二)。

(三) ブルーハイウェイは、原告に対して、一月二二日付けで、アジア経済の不調は理解しているので、引渡準備予定日である二月二日後の日本での停泊場所を、原告の費用負担等の条件で準備をするが、残代金については、支払うよう要求した(甲第三号証の六の一、二)。これを受けて、原告は、ブルーハイウェイに対して、一月二八日、本件売買契約上の最終引渡日は三月二五日だから引渡日を三月二〇日とするよう依頼した(甲第三号証の七の一、二)。

(四) ブルーハイウェイは、被告国際汽船に対して、一月二六日付けで、七日前通知を発していたが(丁第二号証)、原告には到達しなかった。

(五) ブルーハイウェイは、原告に対して、一月三〇日付けで、三日前通知をなし、二月二日以降に要する費用は原告が負担すべきこと、売買残代金の支払をすることを再度要求した(甲第三号証の八の一、二)。これに対して、原告は、ブルーハイウェイに、二月二日付けで、残代金の支払については触れずに、三月一〇日を引渡日とするよう依頼した(甲第三号証の一〇の一、二)。

(六) ブルーハイウェイは、原告に対して、二月二日付けで、引渡通知をした(甲第三号証の九の一、二)。さらに、ブルーハイウェイは、原告に対し、二月三日付けで、原告が三月一〇日に引渡しを受ける用意があると述べたファックスを受け取ったこと、二月二日から引渡しを待っており、そのための費用がかかること、既に売買代金支払の履行期が過ぎており、ブルーハイウェイに解除権、損害賠償請求権が発生していることを確認し、預託金等の速やかな支払及び残代金の支払時期を明らかにするよう求めた(甲第三号証の一一の一、二)。

(七) 原告は、ブルーハイウェイに対して、二月八日付けで、三月一〇日に引渡しを受ける旨のファックスを送付したが、残金の支払時期は明らかにしなかった(甲第三号証の一二の一、二)。これに対して、ブルーハイウェイは、原告に対して、二月九日付けで、いつ代金を支払うのかを二月一二日までに返答するよう要求した(甲第三号証の一三の一、二)。

(八) 原告は、ブルーハイウェイに対して、二月一一日付けで、三月一〇日に受領の手配ができたと回答したが、ここでも、代金支払時期を明らかにするようにとのブルーハイウェイの要求は無視して、何の回答もしなかった(甲第三号証の一四の一、二)。ブルーハイウェイは、原告に対し、二月一二日付けで、原告が要求に応えていないことを抗議し、ブルーハイウェイは債務不履行に基づく解除権、損害賠償請求権を有していること、手付金を没収する権利があること、他の買主と売買の協議をする権利があることを通知した(甲第三号証の一五の一、二)。被告服部は、林に対して、二月一三日付けで、代金支払を速やかに実行しないと三月一〇日まで、ブルーハイウェイを待たせることは難しいと警告した(乙第三号証)。さらに、被告服部は、林に対して、二月一八日付けで、ブルーハイウェイから近日中に代金を支払わなければ他に売却するとの通知があったと再度警告した(乙第四号証)。

(九) ブルーハイウェイは、原告に対して、二月二〇日付けで、本件売買契約を解除する旨の通知をした(甲第三号証の一六の一、二)。これに対して、原告は、ブルーハイウェイに対して、二月二一日付けで、引渡日は三月一〇日に変更されたはずであり解除は容認できない旨回答した(甲第三号証の一七の一、二)。ブルーハイウェイは、原告に対して、二月二四日付けで、引渡日の変更に承諾していないと抗議した(甲第三号証の一八の一、二)。

2  ブルーハイウェイによるストリンジスへの本件船舶の売却

ブルーハイウェイは、右二月一二日付けの権利留保通知を発送した以後、ストリンジスとの間で本件船舶の売買につき交渉に入り、二月二〇日付けの解除後である三月三日に、本件船舶を五五〇万米ドルで売却した(丁第一〇、一一号証)。その際、ストリンジスの要望により、契約書の価格は八八七万五〇〇〇米ドルとされた(丁第一二、一三、一六号証、甲第六号証の一、二)。そして、本件船舶は、ストリンジスに売却されて、三月一八日、日本国籍を喪失した(甲第五号証)。

3  右認定に対し、原告は、本件船舶の売買代金支払期日以前の一月二〇日の時点において、ブルーハイウェイとストリンジスとの間で本件船舶の売買について交渉が行われたと主張し、これにそう証拠(甲第七号証)が存するので、この点につき検討する。

甲第七号証は、本件船舶がストリンジスに売却された後、被告服部が林から呼び出されて、その面前で書いた四月八日付け書面であるが、確かに、同書面には、交渉された時期は一月二〇日ころと思う旨記載されている。

しかし、同書面を記載した日において、林と被告服部の間で面談が行われているが、その状況を録取したテープの反訳書(甲第一〇号証)によれば、面談は、林が被告服部に対して詰問し、これに対して被告服部が釈明する形で行われていることが窺われ、その際に、被告服部は、一月二〇日にブルーハイウェイとストリンジスと直接交渉が行われたとは供述していないが、右原告の返答にもかかわらず、林は、一月二〇日から、ブルーハイウェイとストリンジスとの交渉が始まったことを前提に質問を行っており、この質問自体、誤導にあたるものと評価できるものであるが、この質問に対しても被告服部は、一月二〇日からブルーハイウェイとストリンジスとの間で交渉が行われたとは答えていない。したがって、林と被告服部の面談の経緯からは、被告服部が一月二〇日から右交渉が行われたとの認識を持っていたとは到底思えない。

右経緯にもかかわらず、同日に作成された甲第七号証には、一月二〇日ころから右交渉が行われたという趣旨の記載が存するが、この点について、被告服部は、本人尋問において、林から言われるままに作成したもので、日付などは明確な記憶に基づくものではないと供述している。確かに、被告服部は、林のことを怖かったと供述するのみで、なぜ怖かったのか具体的な状況を供述できておらず、林に脅迫されて書かされたとの状況があったとまでは認められないが、仲介人の立場であった被告服部としては、結果として原告に本件船舶を得させることができなかったという負い目を感じ、林に対して圧迫感を感じたとしても不自然ではなく、甲第一〇号証の記載からは、被告服部が林から責められている状況が窺われることからすれば、被告服部の供述のとおり、曖昧な記憶のままで林に言われた日付を書いてしまったものと考えられるのである。

そして、被告鈴木も、丁第一六号証において、二月一二日以降、ブルーハイウェイとストリンジスとの売買について交渉に入ったと供述しており、ブルーハイウェイが原告の履行遅滞の時点でいきなり契約を解除せず、わざわざ二月一二日の時点でブルーハイウェイに他の買主との交渉権限があることの確認の通知を出していることからすれば、原告に確認通知をした上で交渉に入ったという右鈴木の供述も採用できる。

したがって、ブルーハイウェイとストリンジスとの交渉が開始されたのは、二月一二日以降であったと認められ、甲第七号証の一月二〇日という記載部分については、採用することができない。

三  解除の有効性について

1  七日前通知の欠如について

前記認定のとおり、ブルーハイウェイから原告に対する七日前通知は到達しておらず、引渡期日指定手続に瑕疵があることは否めない。

しかし、七日前通知の趣旨は、それ以前になされる一五日前通知とその後になされる三日前通知と相俟って、売主の指定した船舶の引渡日及び引渡場所を買主に事前に認識させ、その準備の機会を与え、履行を確実にする点にあると解され、七日前通知の欠如という手続上の瑕疵があったとしても右趣旨に反しない特段の事情があれば、解除権の発生を認めても差し支えないというべきである。

本件では、原告は、一月一六日付けでなされた一五日前通知に先立ち、一月九日の時点で、引渡日が二月二日と指定されたとの連絡を受けており、約定の日より早く、指定日及び場所を認識でき、履行に対する準備の機会を余裕をもって与えられている。そして、一五日前通知、三日前通知及び当日の引渡通知が約定どおり行われたことで、売主の指定の意思は原告に十分伝わっている。しかも、原告側のこの間の反応は、引渡日の指定等が行われたのは理解しているが、なんとか引渡日を三月一〇日以降にして欲しいと一方的に要請していたものと認められ、二月二日の引渡しの指定について原告において熟知していたことが窺われる。さらに、原告が、七日前通知がないことに対して異議を述べていたとの形跡も特に窺われない。

また、ブルーハイウェイは、原告の代金不払いに対して、直ちに契約解除したわけではなく、再三にわたる支払催告をなした上で、二月一二日に解除権を留保していることの確認もし、その上で初めて、二月二〇日に解除しているのであり、原告には、速やかに履行をして、契約解除を防ぐ機会が幾度も与えられていたのである。そして、原告は、船舶を受け取るのに準備の時間がかかると主張する一方で、原告及びハヤシマリンは十分な資力があったと主張しているが、原告において、本件船舶の引取りを二月二日に行うことが困難であり受領遅滞を免れない状況だったとしても、自己の代金債務の支払を拒む理由とはならないはずであり、原告が履行を行わなかったことを正当化する事情もなかったのである。

以上のとおり、原告は、約定の日よりも指定日を早く認識しており、七日前通知の欠如について特に異議を述べておらず、その他の通知には何らの瑕疵もなかったのであるし、また、原告は、自ら履行を行うことにつき何ら制約がなかったにもかかわらずこれを怠り、再三、支払の催告を受けてもこれを無視していたものであり、さらに、ブルーハイウェイからの解除は、一週間前にあらためて解除権の存在を確認してから行われたものであり、不意打ちで行われたものとも認められないのであって、かかる事情を総合すれば、七日前通知の欠如という軽微な手続上の瑕疵があったからといって、ブルーハイウェイによる解除は妨げられないというべきである。

2  引渡日の合意について

原告は、被告国際汽船が、ブルーハイウェイの代理人であり、被告服部の回答をもって直ちにブルーハイウェイ及び原告間で引渡日が三月一〇日に合意されたと主張しているが、被告国際汽船は仲介人であって、当然にブルーハイウェイの代理人となる契約関係にあるわけではなく、被告国際汽船がブルーハイウェイの代理人であると認めるに足りる証拠はない。

また、二月三日付けのファックス(甲第三号証の一一の一、二)において、ブルーハイウェイは、引渡しが遅れることによる費用の見積りを記載しているが、同書面では同時に、ブルーハイウェイの損害賠償請求権、解除権を確認しており、原告に代金支払を催告しているから、右見積りは、受領遅滞に基づく損害賠償請求権の損害額を予め通知したに過ぎないものであって、何ら原告の申出を受け入れて三月一〇日の引渡に承諾したものとは認められない。

したがって、原告が主張する三月一〇日に引渡日が合意されたとの主張は認められない。

3  商慣習の存在について

原告は、船舶売買においては、契約上、売主が引渡日を指定する権利を有していたとしても、買主が引渡期間内の期限の猶予を求めた場合、買主はこれに応じる商慣習上の義務があると主張し、その理由として、買主には、高度の技術を有する船員の確保等、予定した引取りスケジュールを左右する事態が発生することがままある反面、売主には、引取りの延期に伴い発生する保管費用が精算されれば、何ら損害が発生しないことを指摘している。

しかし、あえて、社団法人日本海運集会所書式制定委員会作成の船舶売買契約書(ニッポンセール一九九三)という契約書の雛形を利用しながら、雛形に追加条項を付して、売主に指定権を与える約定を定めていることからすると、これを覆す商慣習が存在するとの原告の主張には疑問がある。

本件の引渡日は、単なる引渡日というだけではなく、買主の代金債務の履行期をも規定しているものであり、商取引における売主の立場からすれば資金繰りの面などを考慮するだけでも、履行期がいつなのかは極めて重要な問題であるといわざるを得ないのであるから、債務者の都合で簡単に履行期を変更できるという内容の権利が商慣習になっているとは認めがたい。

さらに、いかに引取りに問題が生じることがあり得るとはいえ、指定される日は一定の期間内の日と決まっており、その日は売買契約から一年も後のことであり、しかも、一五日前から事前に通知で知らされることになっているのであるから、売主に引渡日の指定権を与えることが必ずしも買主側に苛酷を強いるものとはいえないのであって、それにもかかわらず、明文の合意の効力を覆し、売主たる債権者に重大な不利益を及ぼすような商慣習が形成されていると考えることはできない。

したがって、原告主張の商慣習を認める合理性はなく、これを認めるべき証拠もない。

4  信義則違反について

原告は、信義則に反し解除できないと主張するが、原告にとって約定の履行期に自己の債務を弁済することを妨げる事情は何ら存しなかったのであり、履行期たる一月二八日(二月二日が引渡日であり、支払期日は、その三営業日前以内であるから、同日が履行期となる)に代金を支払っておれば、債務不履行解除される余地はなかったのであって、再三の催告にもかかわらず、これを無視し、解除の一週間前に解除権留保の通知を受け取ったにもかかわらず、履行をしなかったために解除されたのであるから、原告の態度及びブルーハイウェイの解除権行使の事情を総合して考えれば、原告が信義則違反を主張する余地はなく、原告の主張は認められない。

四  被告らの責任について

以上のとおり、二月二〇日になされた解除の有効性を妨げる事情は存せず、解除は有効であるというほかなく、ブルーハイウェイからストリンジスに本件船舶が売却されたのが三月三日であることからすれば、解除後に別の買主との間で売買されただけのことであって、何ら二重売買に該当するような事情は存しない。

また、二月一二日の解除権留保通知後、二月二〇日の解除前に、ブルーハイウェイがストリンジスと交渉に入った点については、原告が既に履行遅滞に陥っており、その後再三催告されながら、これを無視し続け、二月一二日付け通知において、ブルーハイウェイが他の買主と協議する権利があることを通知されているのであり、この二月一二日の時点は、ブルーハイウェイとストリンジス間の交渉が開始されたという段階に過ぎず、原告は、遅滞に陥っている自己の債務を速やかに履行して、自己の権利を保全する余地があったのであるから、ブルーハイウェイの行為に違法性があるとはいえず、被告鈴木の責任は認められない。

さらに、再三の通知にもかかわらず原告が履行しなかったために、ブルーハイウェイがストリンジスと交渉を始めてしまったという本件経緯に鑑みれば、二月一二日の時点において、原告が自ら船舶を取得するためには、原告自身が支払債務を履行するほかなかったのであり、仲介人たる被告国際汽船に、ブルーハイウェイとストリンジスの交渉をやめさせ、原告に本件船舶を取得させる権限などなかったのであるから、そのような交渉を強いる法的義務を被告国際汽船に認めることはできない。したがって、被告国際汽船には何らの義務違反はなく、それゆえ被告国際汽船及び被告服部の責任は認められない。

したがって、その余の点を判断するまでもなく原告の請求は理由がない。

第五結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佃浩一 裁判官 西村修 裁判官 石井俊和は、外国出張中のため署名押印できない。裁判長裁判官 佃浩一)

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